自然の中で大冒険 シャワークライミング
そっと足を川の水につけてみる。痛みさえ感じるほどの冷たさに、これが自然の川の冷たさなんだとため息が出る。
ここは大山の阿弥陀川。真夏の暑さを満喫しようと、大人気のアクティビティと耳にしたシャワークライミングに挑戦することにした。
出発した時は、文字どおりうだるような暑さだったのだが、送迎車から降り立った緑に囲まれた場所は幾分かひんやりしていて、明らかに標高が高くなっていることを示していた。そして川に近づくにつれ気温が少しずつ下がっていく。川がすぐそこに近づいているんだなと思い、視線を上げたその時、今までに見たことのないほどの透明感のある清流が僕の目の前に現れた。さらさらと心地よい川の流れる音を聴きながらキラキラと輝きを放つ水面を眺める。ただそれだけでも十分幸せな時間だと思った。
「さあ、川に入りましょう」というインストラクターの指示に続いて、いよいよ川へのファーストアタック。つま先から一気に頭まで伝わるその刺激に思わず身震いする。「冷たい!」「わぁ!!」など参加者たちは悲鳴にも似た声を次々と上げた。はじめは我慢できそうもないこの冷たさも、「それに負けずに歩くことで次第に慣れてくる」らしい。「逆に冷たさに耐えきれずに出たり入ったりすると、いつまでたってもその冷たさに慣れない」とのこと。ほんとかよ、とその言葉を疑いながら、仕方がないのでじっと我慢した。そして冷たい水の中を歩き続けると、ものの5分もしないうちに冷たさを感じなくなってきた。さらに周りに目を向ける余裕も出てきた。
川の両側は切り立った崖に挟まれ、深く鮮やかな緑に覆われている。鳥の鳴き声がするので思わず顔を上げると、ほんの数分前まではぎらぎらと攻撃的な光を浴びせていた太陽の光は、まるでこれからの冒険を応援してくれるかのように優しいひだまりになっていた。
そんな太陽に背を押されながら僕らの冒険は始まった。最初はなんてことない小川に見えていた川も、歩を進めるにつれいろんな表情を見せる。
「らくちんらくちん」とメロディをつけて歌にしてしまうくらい穏やかだと思えば、急に段差が現れ、小さな滝をつくる。川の岩の段差が生じるだけで流れの速さが全く変わるのだ。その流れに負けないようにしっかりと踏ん張る。今日出会ったばかりの仲間と手を取り合って乗り越えていく。そうやって進んでいくうちに気づくのである。最初は川を歩いて登るだけのこのアクティビティの何が面白いのだろうかという疑問が、生身の人間として自然に挑んでいくというまさに今この瞬間を生きているという実感に変わったことを。
そして無意識のうちに出会ったばかりの仲間を助け、助けられている“誰かと繋がっている”という感覚。日常では鈍感になりつつある人間本来の持つ喜びや本能ともいうべき力を思い出させてくれた。
その後も170センチの僕の身長ほどの高さから落ちる滝にアタックそずぶ濡れになったり、立つこともできないくらいの急流に流されそうになったりしながらゴールに到達した。誰もが全身を濡らしながら、皆笑顔で溢れていた。
僕も慣れない自然に挑戦し、仲間たちと協力してゴールしたという満足感、充実感でいっぱいになっていた。
満たされた環境の中で生活しているとつい忘れてしましがちになる感覚や本能を思い出させてくれたのは、自然と正面から向き合った時だけなのかもしれない。もちろんこれまで経験したことはない。ときにはこんな風に人間としての本能を呼び覚ましてみるのもいいもんだなと思う。
帰り際、インストラクターが「この川よりももっと難易度の高い川がある」ということを教えてくれた。そこには泳いで行かなければたどり着かないほどの深い滝壺や、よじ登らなければ越えられない岩肌がそびえ立っているところがあるそうだ。「次の夏また来よう」と決め、凛と澄み切った川を後にした。
【ここで体験できます】
・森の国