ていねいに作りつづける大山おこわ【弥生の風】
雪残る冬の朝、まだ暖まらない店内の奥にある厨房からは出汁の香りが漂い、トントントンとリズミカルな包丁の音が聞こえてくる。
ここはJR山陰本線大山口駅からほど近くにある「ふれあい茶論 弥生の風」。地元の女性グループが閉店した空き店舗を利用して営む、地元の人たちになじみ深い食堂です。弥生の風は総勢15人。日替わりで作り手が変わります。
この日大山おこわを作るのは提嶋俊江さん(82)と井上弘子さん(72)。スタッフの中でも大山おこわ作りを得意とするおふたりです。
しいたけ、にんじん、ごぼう、ちくわ、鶏肉を手際よく刻み、もち米を蒸します。大山おこわのシンボルマークとも言える大きな栗は弥生の風スタッフが1年分を秋の間に拾い、渋皮まで剥き保存しているというから驚きです。
この日、おこわ作りをいちから見せてもらいましたが、とっても手のかかる大山おこわ。熟練の技ともいえるテキパキとしたおふたりの動きに、ただ見ているだけなのについて行けなくなります。
ふるさとの味、おふくろの味として大山のひとたちに愛される大山おこわ。最近では家庭で作られることも少なくなってきました。「うちではね、今100歳になるくらいのひとたちが作ったレシピに忠実に作っちょんよ。いろんな作り方があるけど、この作り方のおこわが美味しいって言ってくれる人が多いけんね」と井上さんは言います。町内はもとより、町外からもこのおこわを買い求めにくる人がいるそう。この日も持ち帰り用に6パックも買うおじさんがいたり、隣の人にあげるけんと買って帰るおばあちゃんがいたり。
弥生の風のランチは日替わり定食(税込600円)のみ。今日は大山おこわに塩さば、和え物、酢の物、野菜とこんにゃくの煮物にお漬け物。このお漬け物は井上さんの手作りです。しょっぱすぎない塩鯖、カブや大根、冬の野菜を中心とした副菜たち。材料もスタッフ自ら育てた野菜、近所の人が持ってきてくれる野菜、米を使用し、手作りを基本としています。厨房からは「大根漬けてきたけん、それ添えてあげて〜」「メインが魚やけん、もう一品副菜つけようか?」などお母さんたちの料理とお客さんへの愛情深い会話も聞こえてきます。派手さはないけれど、体にしみる大山の味。ありきたりな言葉だけれど、「おふくろの味」という言葉がしっくりきます。
どのお客さんにも丁寧に接する提嶋さんと井上さん。おぼんに載せた熱いお茶を運びながら「足りんかったらおかわりありますから言ってください」「今日のおこわはどうでした?」「寒いねえ、ちゃんと食べんといけんよ」とひとりひとりに声をかけます。この日ランチにやってきたのは、おばあちゃんたちグループ、近くで働くおじさんたち、近所に住むお母さんたち、親子連れ。私も少なくとも週にいちどは食べに行くお店です。初めて訪れたときは、「あれ、ここ私がきてもよかったのかな」と不安になりましたが、そんな不安もすぐふっとびます。ここはスタッフだけでなくお客さんたちもみんな優しい。みんなと過ごすゆるやかな昼休み。観光客がふらっと入るのにはちょっと緊張するかもしれませんが、席に座ればあなたももう昼ごはん仲間。大山おこわとおいしいおかず。一緒においしいお昼ご飯たべませんか?
【ふれあい茶論 弥生の風】
鳥取県西伯郡大山町国信(JA大山口支所となり)
電話 080-1901-4164
営業時間 10:00~15:00(売り切れ次第終了)
定休日 土日祝(お盆・年末年始)
※大山おこわは10月~4月の木曜日限定
駐車場 有