西日本屈指のブランド野菜 大山ブロッコリー

大山町の特産品のひとつでもあるブロッコリー。西日本有数の産地として、また近年では、「大山ブロッコリー」というブランド産地としても、全国に知られるようになってきました。JAとっとり西部・ブロッコリー部会、部会長の高見達雄さんによると、昭和40年代頃に大山町で転作作物として導入されたそう。その後、連作による病気の発生や輸入ブロッコリーの台頭で一時低迷した時期もありました。大山周辺では、全国に先駆け、葉付き出荷を行い、産地表示を示して、輸入品との差別化に成功しました。「葉っぱや枝付きのブロッコリーは、現在は当たり前ですが、日本で最初に販売したのは鳥取なんですよ」と高見さんは話します。「大山ブロッコリーというのは、大山山麓で栽培されるブロッコリーの名称です。大山町だけではなく、米子、日吉津、日野などで栽培されたブロッコリーです。この大山山麓は、ご存知の通り、真っ黒な黒ぼく土で、とても柔らかくて、有機物を多く含み豊かなミネラルを含みます。これが美味しいブロッコリーができる秘訣のひとつでもあります。そして、標高差のおかげで、夏場を除く10ヶ月間という長い間、収穫ができます。」

そして最近では、この大山ブロッコリーの中の新ブランド、「きらきらみどり」が注目を集めています。「簡単にいうと、通常のブロッコリー栽培と比べ、化学合成肥料を7割カットして、その代わりに有機肥料を使用し栽培したブロッコリーです。出荷前には、えぐみの元となる硝酸態窒素を測定して、基準に合格したものだけが『きらきらみどり』として出荷されます」高見さんも、この「きらきらみどり」の生産者。ブロッコリーの出荷量の4割近くは、この「きらきらみどり」を栽培しているそう。

そんなブロッコリーの生産地として名高い鳥取県の中でも、生産量トップの大山町。大山町には、就農7年目という若い夫婦がブロッコリーの栽培をしています。坂田裕明さん(33)と千明さん(33)夫婦です。坂田夫妻の圃場は、大山と高麗山が見える大山町稲光(いなみつ)にあります。ブロッコリー畑は120アール。坂田夫妻が育てる作物の中でも、もっとも大きな圃場です。

裕明さんは、長崎県出身。大学時代は、お隣の島根県松江市で遺伝子を学びましたが、当時から好きだった花の栽培に興味を持ちました。「遺伝子は、自分には向いてないなってすぐ悟りました」と笑う裕明さん。山梨県のバラ苗会社に就職しましたが、2年ほどで退職。結婚後、千明さんの実家のある大山町で、農業研修を受け、就農を目指すことになりました。サラリーマン時代は、「とにかく自分のアイデアを誰かに伝えたくて、会社の経営方針にも口出ししちゃう、会社員でした」と振り返る裕明さん。研修後、就農し、自分で自分の農家としての経営を考えることも楽しいといいます。

「正直、ブロッコリーは天候に左右されることが多く、厳しいこともあります。実際に、2016年は秋の台風や大雨で、翌年は黒すす病という流行病が蔓延してしまい、収量が落ちてしまい、ショックでした」

そんな裕明さんを奮起させたのが、兵庫県芦屋にあるフレンチ店のシェフとの出会い。2017年の県の産地ブランド化の一環で、坂田夫妻の栽培したスイートコーンをお店で使ってくれることになりました。「最初はスイートコーンを使ってもらう話でしたが、その後、他にも美味しい野菜を送ってくれと言ってくださって。ブロコリーはもちろん、なすやキャベツなど様々な野菜を使ってもらっています。」

そのシェフは、坂田夫妻の作った野菜に率直な意見を伝えてくれます。「まずいって言われたこともあります。褒められたこと?うーん、たまにはあるかな。」

そんな味に厳しいプロに言われるのは、「形や色が良くても、風味がない野菜はダメ。飛び抜けて美味しい野菜を作って欲しい」この言葉を、坂田夫妻は真摯に受け止め、このシェフに認められる野菜を作りたいという目標を持ちました。そして自分たちの育てた野菜が美味しく調理されることが楽しみでならない、と言います。一度、シェフに頼み込んで、大山まで料理を送ってもらったこともあるそう。「ブロッコリーの焼きリゾットが送られてきました。焼くことだけはこちらでしたんですが、もう美味しくて美味しくて…」と目を輝かせる千明さん。千明さんも、大山ブロッコリーが美味しく食べられるレシピをよく考えるそう。「おすすめなのは、ブロッコリーのチャーハン。ブロッコリーをとにかくみじん切りにして、チャーハンにするとパラパラになって美味しいですよ」と教えてくれました。

ブロッコリーの栽培、大変ですね。でもなぜそんな大変なブロッコリー栽培を続けるんですかと、私が尋ねると2人は言いました。「大山を代表するブロッコリーは、長い間たくさんの人たちが育ててきた大事な作物。そして自分が就農するきっかけにもなった大切な野菜です。美味しいブロッコリーを育て続けて、自分たちが受け継いだように、大山ブロッコリーが次世代にも受け継いでいってもらえるように、ですかね。それにいろんなトラブルがあっても、先輩農家がいろんな知恵を持ってるんですよ。それを教えてもらえるのは、本当にありがたいです」

大山の恵みを受けた、ブロッコリー。それを守り続けた先輩農家たちと、それを受け継ぐ若手農家。これからも美味しいブロッコリー畑が大山周辺にひろがるでしょう。